オリンピック・マラソンについて

おじいちゃんはこう思うー

「オリンピック・マラソンの札幌開催が決まったね。

東京都知事は立派だった。IOCの権威に対し、突然の変更には合意できないことを恐れずに表明し、その上でIOC組織委員会が札幌で行うマラソンを妨げないと言明して大会の成功に努力する姿勢を示したのは、軽視された「開催都市の尊厳」をIOC組織委員会に知らしめた勇気ある行動だったと思う。追加費用についても、「東京都が負担することは契約上の義務だから拒否できないのに」というスポーツジャーナリストの批判にもかかわらずこれを拒否し、IOCに「東京には負担させない」と約束させた。

 

ここで思うのは、組織委員会がなぜこの回答をIOCから引き出せず、土壇場で都知事が折衝することになったのかという疑問だ。組織委員会の会長は「IOCからマラソン開催地を札幌に変更したいという連絡があった時は自分もびっくりした。これを小池知事に言えば大変な混乱になると思った」と述べている。やはり、IOCと東京都の間に立つ組織委員会が、IOCからの連絡を8日間も主催都市の知事に知らせなかったのは事実だったのだ。情報の隠ぺいがもたらす損害は大きい。

 

組織委員会から情報を入手するスポーツジャーナリストや放映権獲得を競うマスメディア企業が組織委員会に対する批判をためらうのは想像できる。しかし、組織委員会の当事者能力には欠缺(または欠陥)が感じられるのにそれを指摘する声がメディアで聞かれず、逆に政治家時代の組織委員会会長に必ずしも従順でなかった小池知事に対し、会長を代弁するかのように「小池さんが混乱を引き起こしている」と批判したのには疑問を感じた。日本と海外のマラソンランナーが「オリンピックスタジアムのゴールに駆け込むのを夢見ていたのにー」と変更を残念がっている様子がひとつのテレビ番組で放映されていたが、耐久レース向けに鍛錬を積んできたアスリートの気持ちをもっと広く聴取して報道した番組はない。

 

おじいちゃんが小学生になった年に太平洋戦争が終わった。爆撃機が去った後の空にぽっかりと浮かんでいた黒い爆弾や、放送された「大本営発表」という言葉は、今も記憶している。当時の大新聞は軍部の意向に従い、戦って死ぬことを名誉としてほめたたえた。全国民に信頼されていたメディアも、自分可愛さから長いものに巻かれる存在だったことを知ったのは、敗戦後のことだ。これにより国民が被った損害は大きかった。東京オリンピックに絡む今回の出来事は規模が違うものの、事実の隠ぺいとジャーナリストの追随にはかつての経験と似た部分があるようで、おじいちゃんには不気味に感じられた。

 

おじいちゃんは、東京オリンピックについた傷がこれ以上拡がらないことを祈っている」

ーどう思うー